墓じまいしたら他の人からとんでもないクレーム!!!/お墓のお引越し・墓じまい

私は数年前から長野市内にあるA寺の住職をしております。
ある日、埼玉県に住んでいる檀家の方(鈴木英雄さん・男性・60代・仮名)からお電話をいただきました。この方のご両親はA寺の地元に住んでおられたのですが、ご両親ともにお亡くなりになり、このお電話をくれた息子さんは地元を離れて40年以上になります。鈴木英雄さん曰く、自分も年をとり長野県に行くことは墓参以外になくなった、だから、両親などの遺骨を神奈川県内の墓地に改葬して、A寺とのお付き合いは終わりにしたい、ということでした。つまり檀家をやめる、離檀したい、ということです。ちなみに英雄さんがお参りしている墓石はA寺の境内墓地の中にあり、鈴木家一族の墓地の一角をしめています。鈴木家一族の墓地の中には、納骨式になっていない墓石(位牌墓)が多数乱立し、英雄さんの管理下にある墓石は、全部で7本あるとのことです。
私としては、離檀するのであれば、英雄さんが管理している墓石は全部撤去(墓じまい)してもらわないと困ると伝えました。離檀料の話をはじめ、話し合いは険悪なムードに。
結局、英雄さんは了承し、A寺近くの石材店に電話をして墓じまいの見積をとり、その石材店に墓じまいの工事の発注をしました。
私は墓じまい工事の当日朝、英雄さん、石材店立ち合いの下、墓石の閉眼供養を行いました。石材店は墓石7本すべてを墓じまいし、私と鈴木英雄さんの離檀手続きをしました。

それから1か月後、突然鈴木康夫(男性・仮名)さんという方がお寺に訪ねてこられました。聞くと、自分が時々お参りしていた墓石がなくなってしまった、その墓石の一番上の棹石には鈴木家の由来書や歌が刻まれていて、とても大切なものだ、ということでした。要するに墓じまいした7本の墓石のうちの1本は康夫さんと英雄さんの共通のご先祖の墓石で、かけがえのない、とても大切なものだったようなのです。
私はあわてて石材店に問い合わせましたが、既に処分場に持ち込まれて粉々になってしまっているとのこと。康夫さんは「写真でもいいから何か残っていないのか?!!」と激怒されましたが、後の祭り。康夫さんの承諾なく墓石を墓じまいさせた責任がA寺にある、とのことで原状回復をするように求められました。
私も責任を感じ、墓じまいした石材店に写真でもいいから何か残っていないかと尋ねたところ、多少写真は残っておりました。あと康夫さん自身も鈴木家の本家などを回り、歌の掛軸の写本を見つけられたようで、それらをもとに墓石に彫刻されていた文字を再現することができ、原状復旧することになりました。
墓じまいするにも、ほかにもそのお墓をお参りしている人がいるかもしれないリスクをしっかり把握した上で、墓じまいしないと後でとんでもないトラブルに巻き込まれるかもしれない、皆様気を付けましょう。

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